ある春の大会(シングルス編)

シングルスについて最も印象に残っている大会について書こうかなと思ったので、筆を取りました。

シングルスについては、思い出ベースというより語りたいことの方が多いので、少しイレギュラーな文章形式をとることになると思いますが、是非最後まで読んでいただくと嬉しいです。

今から書くのは文学作品のようなものではない。

自分が自分のために備忘録として書く、ある春の物語である。

ーーー

朝4時半、アラームと共に目覚める。

朝ごはんを軽くすませ、支度をし、5:30過ぎの電車に乗るため、手袋をして自転車に乗る。

無駄に縦に長いテニスバッグを背負って、真っ暗闇ライトをつけながら走る。

もう3月下旬だというのにとても寒い。

空を見上げると、雨が今にも降りそうなくらいの分厚い雲が立ち込めていた。

こんな早い時間に起きるのはテニスの試合の時だけだと決まっている。

奈良のど田舎、駅から徒歩30分の場所に8時集合なのだから、遠くから来る僕のような人は大変だ。

友人と眠い頭で他愛のない話をしながら試合会場に向かうのは、毎度お馴染みの恒例行事だ。

会場に着き、エントリーを行った後、「今日は寒くないので、襟付き半袖、半ズボンで試合をしなさい。」という論理が全く通っていない注意事項を全体で聞かされる。

理不尽なルールだ。

朝出る頃は隙間すらなかった分厚い雲から、太陽が垣間見れるようになった。どうやら今日は晴れるらしい。

友人の試合が始まった。

そろそろ僕の出番が近い、アップをしよう。

一回戦

1ゲームプレイすると相手のことが大体わかる。(大体のちまたのテニスの試合は6ゲーム取ると勝利)

実力としては五分五分くらいだろうが、相手のミスが多い。一回戦なので、緊張しているのかもしれない。

この場合の最適解はラリーを続け、相手のミスを誘うことだ。相手を飲み込んで、細心の注意を払えば勝てる。そう確信した僕は、1ポイント1ポイント大声を上げて雰囲気を見方につける。緊張の解れない最初の数ゲームを取り切ることを目標に細心の注意を払いながらラリーを行い、見事勝利を収めた。

試合が終わってコートを出ると、友人たちがいた。

「おめでとう!」そういって仲間の友人を喜んでくれる。本当にいい人たちだ。

弱小校だった僕らの学校は、一勝するだけで、本当に褒めてくれる。

確かに、僕らの練習環境と時間を考えると、一勝の壁は大きい。その大きな壁を突破でき、ひとまず安心感を得た。

二回戦

コートに入るとびっくりしたのだが、相手は数日前のダブルスで戦った相手だった。

ダブルスの試合では残念ながら負けてしまった。シングルスとダブルスでは大きく異なるので、負けるつもりは一切なかったが、少し不安ではあった。

彼は、「ロブショットという前に出てきた相手の上を通り越すショットを打つこと」が苦手だと1ゲームプレイするとわかった。動きがぎこちないし、打った後に入るかどうかを願っている様子がうかがえた。

そうと分かれば積極的にネットの近くへ移動する。僕は身長が比較的高く、腕が長いので、少し工夫して立つと相手を翻弄することができる。あえてゆっくりとした球で前に出て自分の動きに余裕を持たせ、相手の考える時間を増やし、迷わせる。移動速度を最初だけ早くしてより近い位置に僕がいると相手に思わせたり、少しラケットを普段より上に構えて実際よりも大きく見せる。そんな小賢しい工夫も意外とうまく行く。ネットプレーが功を奏し、勝利を収めた。

二回戦にもなると、同じ学校から残っている人が少なくなるので、気づけば同級生たちが応援にたくさんきてくれていた。

「さっきの試合、リターンがよかったぞ」と褒めてくれる友人がいた。

僕は普段通りだと思っていたが、よかったらしい。

三回戦

幸い、相手の試合の進行が遅く、相手の二回戦を事前に見ることができた。

スライスショットという、野球でいう変化球のような球があるのだが、それがとてつもなくうまかった。後、変態的に高いロブショットを打って相手を翻弄しているようだった。違う相手との試合を見る限り、全く勝てるビジョンが見えなかった。

僕との試合が始まっても、相手はスライスショットを多用してきた。僕はかなり惑わされながら、とりあえず相手のコートへ打ち返すことを意識した。スライスショットが弱点とわかれば、そればかり多用されてしまう。それを悟られないようにできるだけミスをしないようにいつも以上の注意を払うのである。

そんな中で、相手の弱点に気づく。相手は、どうやら浅くて(ネットに近くて)低くバウンドする球を返すのが苦手なようである。もう少しゆっくり打てばいいものを、全部フルスイングするのである。全部フルスイングするのは、見た目や話し方から予想される性格とも一致する。ネット付近の低い球は、スピードのあるボールで返そうとすると、十分量のスピンが必要で、手首や体重移動のリズミカルで柔軟な動きが求められる。これらは繊細な動きのため、意外とミスをしやすい。

そこをついた。あえてドロップショットを打ったり、浅めのはねないサーブを打ったり、工夫をした。するとみるみるうちにゲームをとることが出来た。

相手のメンタルにも問題があった。ネット付近のはねないサーブや、ドロップショットは速度が遅い。相手はゆるりとした球を返すことが出来ない自分に腹が立っているようであった。テニスというスポーツの特性上、自分のミスは相手の点数となってしまう。自分のミスで点を落とすほど辛いものはない。

その作戦が功を奏し、僕は見事勝利することが出来た。初めから諦めないことは本当に大事だ。

四回戦

この辺りになってくると少し疲れが見え始める。

雪が降ってきた。滑って怪我をしたら大変だと思っていたら滑って怪我をした。2分で戻らないと失格だと言われ、走って30秒の水道まで全速力で走った。人が怪我をしているというのに、理不尽なルールだ。ちょっとだけ降っていた雪は、2分の間に激しさを増した。

天候も酷かったが、試合の方もなかなかに酷かった。僕はラリーでもネットプレーでも全然勝てなかった。あの試合は後でどう思い出しても勝てなかったなぁと思う。ネットプレーの小賢しい工夫も、きちんとコースを狙われれば届かないのでどうしようもない。ラリーについてどれだけ慎重になろうとも、相手がマシンのように返してきてはどうしようもない。何ゲームかは取ったが、勝てる試合ではなかった。大きすぎる実力差の前では、小賢しい工夫やメンタルゲームはどうにもならないことを悟った。

帰路に着く頃には雪も止み、すっかり空が赤く染まっていた。

僕は今までの自分の成績の中で一番の戦績を残し、少し得意げな顔をしていたと思う。

みんなも褒めてくれ、調子に乗っていた僕は、ラケットを試合会場に置いて帰ってしまった。

駅についてから気付き、徒歩30分を試合後に往復ダッシュした。辛かった。

駅に帰るとみんなが駄弁りながら待ってくれていて、とても嬉しかった。

早起き、試合4セット、往復ダッシュがたたり、最寄駅からの帰りの自転車では足をつってしまった。

つってしばらく動けないなと道端で自転車とゆっくりしていたら、試合のことを考えてしまい、急に悔しさがこみ上げてきた。後1勝くらいはしたかった。そう思うと止まらなかった。

「明日からの部活、頑張ろう。そして次のジュニアではもっといい結果を残そう。」

そう思っていた。

次のジュニアが引退試合となることは知らずに。

ーーー

うーん、無理やりエッセイとして書こうとしてしまった感じが否めない。書き直すのが面倒だったので、もういいやと思って書ききってしまった。

僕が勝利していたのは、決して実力のおかげではないと思う。技術力で言えば、完全に相手に負けている。ダブルスでも少し話したが、その差をどう埋めるか、それがとても重要である。それは日々の鍛錬や、試合前のコンディション調整、などに大きく依存する。

一回戦からは「緊張」について学ぶことができる。相手のミスが多かったのは一回戦であったからだと思う。一回戦というのは、その日初めてボールを打つ試合であり、その日の調子というものに最も大きく左右される。なので、試合前の心と体の準備が重要になってくる。少しでも気の迷いや体の中で鈍っている部分があると、それが命取りとなる。

緊張をコントロールする手法はいくつかある。大声を出して、体の強張りを抜くことも一つであるし、なんらかのルーティンを行うのも、コントロール手法の一つである。

緊張のコントロールは日々の鍛錬も関わってくる。例えば、日々の練習でどれだけ緊張感を感じれているかはいうまでもなく大事である。さらに、日々の練習での些細な行動(テニスでいうところのスイング)にどれだけ説明がついていているか、これができていなけえれば、試合中の調子が悪い部分を修正することはできない。このような日々の鍛錬の工夫というのは、テニス以外のことについてもかなり応用できると思っている。

二回戦からは、「観察の重要性」について学ぶことができる。観察は非常に重要である。試合中に得られる情報は相手の言動や行動一つ一つ絶対に見落としてはならないと思っている。特にテニスは「相手の気持ちを読み、それに合わせて自分のするべきことを考える」ことが重要だと思っている。(これは顧問の受け売りだが。)相手の言動・行動から相手の心理状態を読み、自分の行動が相手にどう映るのか考えれば、自ずと策が見えてくる。これは日常生活のあらゆる場面でもそうだと思う。相手の気持ちを推測するということは、とても役に立ち、自分のするべきことの最適解を与えてくれることが多い。

三回戦からは、「メンタル」について学ぶことができる。メンタルはテニスというスポーツにおいて重要な項目である。これは「緊張」の項目とも似ているが、普段の鍛錬に自信を持っていることや、自分の精神をどのようにして理想の状態に持っていくのかが非常に肝となる。僕の場合は声を出したり、ルーティンを設定していたり、ある程度試合の想定をしながら練習をすることで対策をしていた。

三回戦の対戦相手のように、人は追い込まれると、その人の”ひととなり”が現れてくるものである。自暴自棄のようになる人間もいるし、非常にlowになって落ち込んでしまう人間もいる。それらはテニスのプレーに現れてくるし、自分の”ひととなり”がどうであるか、きちんと自分で把握しておくべきである。追い込まれた時や精神的・肉体的ストレスが与えられた時に、いかにして冷静になり、通常通りのパフォーマンスを発揮できるかは日常生活においても非常に重要であるし、意外とできていない人間がたくさんいると思っている。僕もできているのかどうかはわからないが。

あぁ、最後の方は少し話が抽象的になってしまった。シングルスは特に真面目に取り組んでいたのでこうなってしまう。

5年間もやったのだし、テニスについて書きたいことはまだたくさんあるなぁ。

次の記事ではもう少し真面目にテニスについて全般的に語るような記事を書こうか、それとも僕の部活のバックグラウンドの話でも書こうか、迷いどころである。

P.S.

物語最後、意味ありげに、「次のジュニアが引退試合となることは知らずに。」と書いたが、これについてもいつか語る気が向けば、より正確に言うと僕の中で整理がつけば、語りたいなぁと思う次第である。

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